「君はどうして紙の書籍にこだわるの?」
桐生七海がその銀髪の男に久しぶりに会ったときに、男はいつものように、髭を蓄えた口元に薄く笑みを浮かべながら、丸メガネの奥の目を細めるようにして言った。久しぶりに七海が来たからと言って、ノートパソコンでの作業を少しも止めるつもりはないらしい。
どうしてって、と七海は周りを見渡しながら言う。
「先生は、書店の経営者なのに、よくそんなこと言えますよね」
その書店、天王星書店は、相変わらず七海以外、一人も客がいなかった。だが、古今東西の書物が、西洋の図書館のように所狭しと並んでいた。天窓から射す光が、書籍の背表紙を、まるで神聖であるかのように青く際立たせていた。
あ、これね、とその男はこともなげに言った。
「こんなものに、本質などないさ」
「でも、先生は、これらの本をみんな読んでいるんですよね?」
「まさか」とおかしそうに、また、七海を馬鹿にするように男は笑った。
「読んでいるものもあれば、読んでいないものもある。つまらなくて、途中で止めた本もある。何せ、本は“目的“ではなく、“手段“に過ぎないからね。手段を神聖視することは、実に馬鹿げているとは思わないか」
「本が、目的ではなく、手段に過ぎない?」
いまいち、腑に落ちず、七海は男の言葉を繰り返してみる。
ああ、と男は頷く。
「いいかい、本は有益な情報が詰め込まれた、一つのパッケージに過ぎないんだよ。デパートの地下のお菓子売り場のお菓子は、箱のパッケージに本質があるのではなく、中身に本質があるはずだろ? 本だって同じさ。重要なのは、中身であって、決して物としての本ではないんだよ」
そう言われてみると、悔しいが、そんな気がしてくる。
「本を読む目的は、有益な情報を得ることだから、手段は、何も紙にこだわる必要はないーー」
ブラボー、と男は初めてノートパソコンを打つのをやめて、七海に向かって拍手をする。
「今なら、YouTubeやブログ、TikTokにPodcastなど無料コンテンツも無数にあって、しかも、世界中でそれらが公開されている! 信じられないくらいに学びやすくなったということだ。この店に、客が来ないのは、至極当然なことなんだよ」
と、自虐的な風でもなく、両手を広げて言う。
「この前も、Amazonプライムビデオで、アメリカの独立戦争を題材にしたドラマを見たときにね、どうしても独立戦争のことをすぐに学びたくなって、役に立ったのが、YouTubeだったよ、本当に手軽に必要な情報が手に入る。そして、わかりやすい」
「本屋の店主が、YouTubeで勉強ですか?」
「ああ、便利なのものは、徹底して使うべきさ。そして、Netflixのドラマを観ていたら、ヴァイキングについて調べなくなってね」
「また、YouTubeですか?」
「いや、ナショナルジオグラフィックの特集号を見つけたんだよ、非常に面白かった」
と、言って、その男が七海に見せたのは、iPadだった。そこには電子書籍が映し出されていた。
「電子書籍も読むんですか?」
「目的のためなら、手段は問わないからね、僕は。便利なものがそこにあれば、迷わず、それを選ぶ。さらにーー」
と、男はiPadをスワイプして、別の画面を見せる。
「ChatGPT……。今話題のAIですね」
そう、七海を指して男は言う。
「バイキングについて、さらに調べたくてChatGPTを使った。こちらが調べていることとの矛盾点についても、こうして、明確に答えてくれた」
「寒冷化は影響ありませんか、の部分ですか。なるほど、追加の質問についても考えて答えてくれるんですね」
「そう、これは革命だよ。これを使いこなすかどうかで、学習格差が生まれる。もう、誰もが本を創れる時代になったと言うことだ」
「本を創れる?」
「本を読むだけでなく、本を創る。そこまでいかなければ究極の学びには到達できない」
紙の本だけでなく、YouTubeや電子書籍からも学び、話題のChatGPTにも手を出して本も自分で創る。
筋は、通っていると思った。本屋の店主である、という事実を無視して考えれば。
ただ、七海は不思議に思うことがあった。
「先生は、情報を商うプロですよね?」
ああ、と男は頷く。この男は、情報を商うことによって、世界で隠然たる力を持っている。天王星書店の店主とは、仮の姿と言ってもいい。
「そのプロが得る情報としてはーー」
「あまりに当たり前で、普通だって、七海は言いたんだね」
と、男が言うのに対して、七海は頷くしかない。YouTubeやAmazonプライムビデオやNetflix。そして、Kindleの電子書籍。誰もが得られる情報だろう。ChatGPTに関しても誰もがアクセスして使うことができる。
「ポイントは、それをどうシステムとしてまとめるか、なんだよ。それが差別化の大元になる」
「誰もが得られる情報を、まとめるシステムを、先生は持っていると?」
七海が想像したのは、スーパーコンピュータとサーバーが鎮座した倉庫のような空間だった。この男なら、世界中のスーパーコンピュータとサーバーにアクセスすることなど、他愛もないことなのかも知れない。
ところがーー
「ま、こんな感じかな」と男が見せたのは、iPadのアプリらしかった。
「Notionと言ってね、非常に便利なんだよ。これまでデータベース化させるのに手間がかかっていたんだけど、今ではこれに一元化して管理している。現在進行形の学びも、去の学びも、これからの学びのスケジュールもね。YouTubeや何かも、全部これで整理している」
「スーパーコンピュータでも、サーバーでもなく?」
「そう、Notion。これで学習速度と量が格段に上がって、僕の中で革命が起きたと言っていい。そのメソッドをまとめたのが、今、書いているこれだ」
今度は、男は七海に、先ほどまで打っていたパソコンの画面を見せる。どうやら、何かのドキュメントを制作していたらしい。そのタイトルを七海は意味を確認するように読み上げる。
「無限ラーニングZ?」
そう、と男は頷く。
「このメソッドを駆使すると、一生涯、何かのスキルや知識を習得するのに困らなくなる。しかも、別に紙の本を買わなくても、YouTubeで学び、ブログで学び、電子書籍で学べば十分だ」
そしたら、と七海は湧き上がっていた懸念を口にする。
「このメソッドが広がってしまえば、本屋さんが潰れちゃうじゃないですか!」
「たしかに、そうかもね。だから、僕だけがこのメソッドを独占しようと思っているんだよ」
と、男は、パソコンの画面をクルリと自分の方に戻し、パタンと閉じてしまう。
「私には、教えてくれますよね、先生」
「どうして?」
「どうしてって、なんだか、ズルくないですか、先生だけそのメソッドを独占するのは」
「企業秘密とは、そう言うものだよ。それにたった今、君はこの無限ラーニングZが世の中に出ると、本屋が潰れるって言ったじゃないか。僕も本屋が好きなんで、潰れると困る。だから、教えないよ、誰にも。ただしーー」
と、男は七海に、悪戯っ子のような目を向ける。前にもこの目を向けられたことがあるような気がする。
「いくら、ですか?」
そう、この男は、情報を商うことを業としているのだ。
「七海、いくらなら、払える?」
七海は、ちょっと考えてみる。もし、その学習方法を身につけて、そのメソッドの名前にもあるように、「無限ラーニング」ができるようになれば、いくら払っても、高いと言うことはないような気がする。逆に、そのメソッドがない人生は、ちょっと損をするような気がしてならない。現に、目の前にいる男は、学ぶことを楽しそうに語っている。
こんな風になりたい。
そう、七海は思ったーー
改めまして、お読みいただき、ありがとうございます。天狼院書店店主および『殺し屋のマーケティング』著者の三浦でございます。
今回、実際は僕が講師を務めますが、立場上、この「無限ラーニングZ」を世に出すことは、自己矛盾も生じることなので、今回はこの小説の主人公に因んで、“西城潤”として登壇いたします。
しかも、この講座を受講することによって、「無限ラーニングZ」を習得する人が増えてしまえば、有料講座を買う人も、紙の書籍を買う人も減ってしまうかも知れませんので、特別指定講座として、50名様限定でやりたいと思います。
今回、リリースするのは、2022年に大好評をいただき、50席がほんの4日間ほどで完売した、「無限ラーニングZ」の究極進化版です。
まずは、過去の無限ラーニングZでは対象でなかった書籍がラーニングの対象になります。
実質的に姉妹講座の書籍のラーニングが対象だった「無限リーディングZ」の論点まで吸収することになります。
さらには、デジタルのデータベースサービス「Notion」だけでなく、新開発の「リーディング・ノート」(海の出版社)でアナログ×デジタルレコーディングをします。
さらにさらには、今話題のAI、ChatGPTのラーニングへの実装まで詳しくやろうと思っています。これから先、ChatGPTはラーニングに欠かせない相棒となると考えています。
無限ラーニングZ方式という独自の学習メソッドは、さらに磨かれ、再現性を増すように改変しました。
その改変型で、実践したテーマ「発信力養成」のラーニングの軌跡を、今回、公開いたします。
もしかして、お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、このラーニングはこちらも大人気となっている「発信力養成ラボ」の大本になったものです。
いかに無限ラーニングZ方式を実践して、人生やビジネスを変容させているのかをトレースできるのではないかと思います。
また、講座を受講する場合は、必ず、Notionをダウンロードしてください。このサービスがレコーディング・システムの中核となりますが、基本的には無料で使えるサービスで、パソコン版もiPad版もアプリとして提供されています。
ChatGPTは無料版でも構いませんが、アクセスなどの問題を考えると有料版のChatGPT Plusをお勧めします。少なくとも、講座が始まる前に試しておいてください。
まだお持ちでない方は「リーディング・ノート」(海の出版社)もご用意ください。こちらは1テーマに1冊あるのが理想です。
それでは「無限ラーニングZ《Ultimate究極版》」でお会いしましょう。
どうぞよろしくお願いします。
■講師プロフィール/西城潤(あるいは天狼院書店店主 三浦崇典)
天狼院書店店主および『殺し屋のマーケティング』著者。
独自の独習メソッド「無限ラーニングZ」によって、数々のスキルや資格を習得。
現在、経営者、大学講師、プロカメラマンの他に、劇団主宰、雑誌編集長、ライター、小説家の顔、および、国家資格行政書士の資格を保有する。
天狼院書店の運営会社㈱東京プライズエージェンシーのみならず、福岡でも㈱インパルスを経営する。
読書が楽しくて止められなくなるノート「リーディングノート/READING NOTE」〜楽しく100冊読んで、知らない間に10の目的をかなえる〜《初回1,000限定/海の出版社!》